【非公式外伝】ガンダムビルドファイターズvs.プラモ狂四郎 第一章「ビルドファイターズ」

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【非公式外伝】ガンダムビルドファイターズvs.プラモ狂四郎 第一章「ビルドファイターズ」


初地上波ガンプラアニメ『ガンダムビルドファイターズ』放映記念作品
ビルドファイターズvsプラモ狂四郎

全9章構成全10章構成で今回は第一章です。残り8章
前回はこちら↓
【非公式外伝】ガンダムビルドファイターズvs.プラモ狂四郎 序章

次回は12月下旬~1月上旬公開予定です。

それではお楽しみください。




 第一章 「ビルドファイターズ」

 麗らかな陽光が満ちた昼下がり。高さ八十センチ程の六角形のユニットが七つ、ハニカム構造状に並んでおり、その両端で男たちは互いに睨み合っていた。その周りを取り囲むようにギャラリーが幾重にも積層している。皆の視線の先から空気の波を伝って、通りすがる人の足を止めるのに十分な怒声が響いていた。
「オレに喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!」
 息を巻いたのは四人のそれぞれ無個性なカジュアル衣装に身を包んだ大学生の集団、その先頭に立った男であった。その拳は一張羅のガンプラを握り締めながら怒りに震えている。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ!」
 もう一方に陣取った少年が荒々しい目つきでその挑発に応じる。少年は赤く燃えるような髪色に、どこか日本人離れした容姿をしていた。今にも噛み付きそうな趨勢で、その状況を心底楽しんでいるように見える。
「レイジ、あんまり火に油をそそいじゃダメだよ。そもそも悪いのはレイジの方なんだからさ」
 赤い髪の少年〈レイジ〉の半歩後ろには浅黄色のパーカーを羽織った少年が呆れながら彼の言動を制しようとした。
「なんだよ。水を差すなよな、セイ。誰だって間違いの一つや二つあるって!」
 振り向いたレイジの屈託のない顔に、パーカーの少年〈イオリ・セイ〉は、自分で言うなよ、と小さく独りごちると、次の瞬間にはその目つきを鋭く切り替えていた。
「まあ仕方ないね。やるからには」強い芯の通った眼光を対戦相手に叩きつける。「勝つよ!」
 イオリ・セイが吠え、レイジがそれに続いた。
「おうよ!」

 けやきが丘区にある〈けやきモール街〉には商店街の人たちが資金を出し合って設置された誰でも使用可能なフリーのバトルベースがある。昔ほど振るわなくなった商店街への集客に、いま全世界で一大ブームを巻き起こしている“ガンプラバトル”を利用しようと商店街の二世たちが提案し、設置の実現にこぎ付けたのだ。設置してからというもの、親子二代でガンプラを楽しんでいる家族連れも利用すれば、今回のように野良バトルの会場になったりもする。このバトルベースは当初の目論見以上に多用途に使われており、幸か不幸か商店街の“集客”自体には間違いなく貢献している。

"Please, set your GP-BASE. "
 バトルベースが発した電子音声がレイジたちに戦闘準備を促す。六角形のユニットから張り出したコンソール、そのスロットにガンプラバトルの携帯端末である〈GPベース〉を差し込むと、ガンプラの製作データやファイターID・戦績などの情報がバトルベースへと流れ込む。

イオリ・セイ&レイジ

"Beginning Plavsky Particle dispersal. "
 GPベースの挿入が確認されると、今度は六角形のユニットの外郭に沿って青白く光る粒子の柱が上方に向かって伸びていく。その様子はさながら周囲一帯がヒカリゴケを敷き詰めたアクアリウムの底へと落ちていくようだった。
"Field-2[DESERT]"
 バトルフィールドが抽選され、ユニット7面分の広さに『機動戦士ガンダム』に登場したテキサスコロニーが、起伏の多い荒廃した夕闇の岩石砂漠が広がる。と同時にレイジとセイの周囲にもホログラムのコクピットが形成され、レイジの前には光球状の操縦桿と各種パネル、セイの前にはオペレーター用のパネルが出現する。
"Please, set your GUNPLA."
 最後の案内を合図に、レイジが自分たちの専用ガンプラである《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》をカタパルト型の台座にセットする。するとその足裏から流れ込んだプラフスキー粒子がまるで血液のようにガンプラの隅々まで走り、次の瞬間ツインアイに光に点った。

 プラフスキー粒子──十年前に発見されたこの粒子は、高濃度で散布されるとプラスチックに反応して流体化する性質があり、これを利用することで普段は動かないアニメ『機動戦士ガンダム』のプラモデル、通称“ガンプラ”をまるで本物のMSのように動かすことが可能となった。また粒子変容によって実弾やビームの光軸、着弾時の爆発といった視覚・聴覚的エフェクトをも本物さながらに再現可能となっている。プラフスキー粒子を利用したこの擬似戦闘をシステム化・レギュレーションを設けたものが、現在“ガンプラバトル”と呼ばれる対戦競技となり、全世界規模で親しまれている。
 このガンプラバトルには二種類のプレイヤーがおり、ガンプラを製作する“ビルダー”とガンプラバトルで操縦をおこなう“ファイター”の二人一組で参加する者と、自分で作って自分で戦う、“ビルダー”と“ファイター”を一人で完結している者である。イオリ・セイとレイジは前者のガンプラバトルプレイヤーであり、セイは“ビルダー”、レイジは“ファイター”をそれぞれ担当している。

「こ、これはいったい何事だね? セイくん」
 立派な口髭をたくわえた恰幅のいい男性が、集まったギャラリーを掻きわけ慌てふためいた顔をのぞかす。
「あ、ラルさん」その姿に気付いたイオリ・セイが応じる。「実は──」
 セイは、ラルと呼んだ男に対し、バツが悪そうに経緯を話し始めた。

 * * * * *

 ──三十分前
「なあ、セイ。知ってるぜ。この間抜けなツラのやつ。こいつ《ザクレロ》って言うんだろ?」
 その日レイジとイオリ・セイは商店街のおもちゃ屋が主催するガンプラのコンペティションに訪れていた。店内に陳列された力作の数々を眺めることがセイにとっては何よりの眼福であったが、ガンダムを知らないレイジにとっては不毛な時間でしかなかった。あまりに間が持たなかったので、セイから見聞きした知識で適当な作品に言及をしてみた、その矢先のことだった。
「否! 断じて否! それは《ザクレロ》などではない!」荒げた声のした方を向くと激昂している男の姿があった。「それは《シャークマウスボール》だっ!!」
 《シャークマウスボール》の製作者と思わしきその男は、けやきが丘区にある大学の模型サークルのメンバーだった。同模型サークルは関東でも指折りの大学生モデラーがインカレで所属しており、コンペやコンテストでも度々チームでディオラマを製作しては上位入賞をしてきた実力派である。もちろんその《シャークマウスボール》も丁寧な表面処理にグラデーション塗装、適度なディテールアップとウェザリングで他作品とは一線を画すクオリティになっていたのだが……レイジにはそんなことはどうでも良かった。
「おーおー、怒んなよ。顔が《ザクレロ》みたくなってるぜ?」
 レイジの粘度のある挑発的な物言いにその大学生の顔面は耳の先まで紅潮していく。
「貴様ァ! その、持っているのはガンプラか? ファイターだな!?」彼は生来怒りっぽい性分だった。「それならガンプラバトルで勝負だ! その減らず口を二度と叩けないようにしてやる!」
 レイジはしたり顔で小さく拳を握り込むと、さらに嬉しそうに煽り続けた。
「望むところだぜ。お手柔らかに頼むよぉ、《ザクレロ》ちゃ~ん」
 火花をまき散らす二人の周囲にはいつの間にか物好きたちで人だかりができていた。騒動に気付いたセイと、《ザクレロ》ちゃんのサークル仲間が駆けつけたときには既に状況は窮まっていた。

 * * * * *

「──と、いうわけなんです」セイがオペレーター用のコクピットから乾いた笑いを送った。
「ああ、そういうことだったか」
 ラルは理解しがたい状況を理解して、目を細めて呆れ果てた。

"BATTLE START"
 双方のガンプラの射出準備が整い、バトルベースがガンプラバトルの開始を告げる。機体のコントロールがファイターであるレイジへと移り、カタパルトが滑り出す。
「ビルドストライクガンダム!」「行くぜ!」
 セイが機体名を叫ぶに次いで、レイジが大きく気を吐く。前傾姿勢を取った《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》はカタパルトを軽やかに滑走し、砂塵吹き荒ぶ戦場へと弾き出された。

ビルドストライクガンダム フルパッケージ


 出撃するセイの機体を見てギャラリーの最前列でラルが一人つぶやく。
「あれは《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》。セイくんが〈SEED HG エールストライクガンダム〉をガンプラバトル選手権用に改造したガンプラだ。圧倒的な機動力を駆使した高機動戦闘を得意としている。その製作技術の高さゆえに一端のファイターには動かすことすらままならないが、あの少年・レイジくんはそんなピーキーな機体を苦もなく乗りこなしている。それにあのバックパック、《ビルドブースター》は単体の戦闘機としても運用が可能とは、さすがは第二回ガンプラバトル選手権世界大会準優勝者イオリ・タケシの息子が作った機体と言ったところか……」

 * * * * *

 旧時に灼かれて焦げた黒砂が時折吹く突風によって巻き上げられ、しばらく視界を遮った後に申し訳程度の風紋を描きながら降り積もる。透過率の低い大気が遠方の稜線を望むことを許してはくれないが、切り立ったテーブル型の岩場が点在しているのはぼんやりと確認できる。くすんだ頭上の向こうには壊れたコロニーミラーが通っているはずだ、とセイが教えてくれた。
 出撃した《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》は空中で一度加速を試みる。しかし、すぐ突風により砂塵を叩きつけられ地上への降下を余儀なくされた。確実に空戦に入ると分かっているならまだしも、索敵の段階であれば無理に空中に居座って的になる必要はないと判断したレイジは概ね正しい。
 一陣の風を地上でやり過ごしたあと視界の切れ間に機影が揺らいだのをレイジは見逃さなかった。セイも明滅する[CAUTION]の文字とアラーム音をすぐにキャッチする。会敵!
「突っ込んでくる!」接近する敵機が鮮明に確認できる距離まできてセイが声を上げた。「あれは──《ジンクスIV》!!」
「どんな機体だろうが関係ねえ!」レイジは頭部バルカンをばら撒いてけん制する。《ジンクスIV》は『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』に登場した地球連邦軍の主力量産型MS。大型近接武装・GNバスターソードを担いだその機体の接近速度は速いと思えない。距離を詰めれば速度の差で圧し込める、とレイジは判断し、腰のビールサーベルを抜刀して急速に距離を詰める。リーチ差にだけ気を配りながら迎撃体勢に入る。
「待って! レイジ! その機体は“グロスインジェクションバージョン”だよ!」
「グロスイ? あんだって?」《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》が間合いをぶつけた《ジンクスIV》に対してビームサーベルを横薙ぐ。「ハッ! 遅ぇ! ハエが止まるぜ!」
「“グロスインジェクションバージョン”、つまり……〈TRANS-AM〉だ!!」
 セイの言葉が届く前に、《ジンクスIV》は残像と共に視野外に沈んだ。ビームサーベルは敵を捉えることなく空を切り、次の瞬間に懐からGNバスタソードの刃先が斬り上がってくる。レイジは間一髪後方に上体を反らすことでこれを凌ぐ。その体勢から頭上へと切り抜けた《ジンクスIV》に対し、小脇に構えた《ビルドブースター》の大型ビームキャノンを入れようと放つが、火線はただただ宙へと吸い込まれた。
「速えぇ!」レイジが数秒の攻防で見せた敵の圧倒的な機動力に舌を巻く。「セイ! どういうことだよ!?」

 その様子を見てギャラリーの最前列でラルが一人つぶやく。
「あれは〈TRANS-AM〉。太陽炉を搭載している機体に組み込まれている装置だ。高濃度に圧縮された粒子を全面開放することで、スペックを三倍以上に上げることができる恐ろしいシステムよ」

 返す刀で大振りにGNバスターソードを振り下ろしてくる《ジンクスIV》。二本のビームサーベルの腹で辛うじて受けることができた《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》はこれを押し返すので精一杯だった。しかし、戦況が有利なはずの敵はこれに驚くほど素直に応じた。押し返して一旦退かしたことにより、二機の間に距離が置かれる。《ジンクスIV》の四基のカメラアイが不敵に灯った。
「おい、テメェ! 何を企んでんのか知らねえけどよ、正々堂々と切り結んだらどうなんだ?」不満そうに言い放つレイジが短く痺れを切らす。「だったら、こっちから行くぜぇ!」
「レイジ! 右だ!」
 高出力の火線が四本、距離を詰めようと地面を蹴り出した《ビルドストライク》の眼前を横切っていった。セイの声に反応して咄嗟に回避をおこなわなかったら今頃機体の頭部は消し飛んでいただろう。
「今のはいったい、なんだ?」
 面食らったレイジはそれでも火線の源を望遠カメラでたどる動作を忘れなかった。レイジと共有した望遠映像をセイも確認し、すぐにその表情を険しくした。
「《ブラストインパルス》!? それに《クロノス》も!?」
 そこには『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場した《ブラストインパルスガンダム》と『機動戦士ガンダムAGE』に登場した《クロノス》という、強力な砲戦機が並び立っていた。二機の足元には肩幅に轍がひかれ、高出力砲撃の余韻を如実に物語っている。
「こんなの! 三対一なんて反則じゃないか!」
 状況を把握したセイの非難は敵側のコクピットでほくそ笑む大学生へと向けられていた。いつの間にかバトルベースのメインプレイヤーの両端にもう三基〈GPベース〉のコンソールが引き出され、サークル仲間が素知らぬ顔でガンプラバトルに参加していた。
「ガキ相手になァ! 反則もへったくれもあるわきゃあねえだろぉぉおおッ!!」
 まるで《ザクレロ》の如く、狂気を帯びた笑顔で大学生は絶叫する。その歪んだ興奮そのままに《ジンクスIV》は突撃してくる。《ブラストインパルス》と《クロノス》も散開して位置取りを始めた。
 こんなのフェアじゃない! 付き合うことないよ!、とセイが喚くより早く、レイジが静かに言い放った。
「戦闘は継続だ、セイ。ああいう下衆な野郎をこれ以上調子づかせるわけにはいかねえ」
 レイジの淡白な物言いの裏には煮えくりかえるほどの怒りが存在していること、短い付き合いながらセイは理解していた。ポジティブな感情は表情に出やすいのに変なところで不器用なやつだ、とセイは出かかっていた言葉を飲み込んだ。

 * * * * *

 ──レイジは善戦した。ガンプラバトルでの優劣はそのガンプラの出来と操縦者の腕で決まる。模型サークルに所属する大学生たちのガンプラの出来は言わずもがな、決して操縦も下手というわけではない。そのような状況下において、ましてや三対一という圧倒的な劣勢を互角に渡り合っていたのだ。〈TRANS-AM〉を発動した《ジンクスIV》と高速の白兵戦をおこないながら、動作の硬直を《ブラストインパルス》と《クロノス》の火砲に狙われる。敵のいずれの武装も一撃もらったら即終了だということが分かっていたからこそ、レイジは終始防戦に徹しざるを得ず、それでも反撃の機会を窺っていた。そして──戦況は存外すぐに決した。
 四方から[CAUTION]の明滅がレイジの顔を染めていた。《ジンクスIV》との鍔迫り合いに気を取られすぎ、後方に《ブラストインパルス》、左方に《クロノス》に位置取られてしまった。前後左右への逃げ場を絶たれた、避けようのない十字砲火がくる。レイジは極めて冷静にこれを処理した。鍔迫り合っていたGNバスターソードを引き入れ、《ジンクスIV》の体を前へ崩す。そのまま肩部をはたき込み、足下でケルベロスとクロノスキャノンが交差するのを尻目に上空へと回避した。──はずだった。
「上はダメだ! レイジ!」
 違和感に気付いたセイが警告するが早いか、レイジはその直上に新たな機影がこちらを狙っているのを見た。地球連邦軍のSFS《ライトライナー》を背負った《ジムスナイパーカスタム》。自機への被ロックオン表示が四機に、一機増えていることに今更ながら気付く。そういやあいつら全員で“四人”だったか、と脳裏に浮かんだのも束の間、《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》がビームライフルを構えるより遥かに早く、《ジムスナイパーカスタム》の狙撃用ビーム・ライフルが火線を吐いた。

シャアキック


 そのとき半ば意識に“敗北”の二文字をチラつかせていたレイジの耳に飛び込んできたのは戦闘終了を知らせる電子音声ではなく、プラスチックの鈍く軋む音、だった。《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》の体が背面から“くの字”に折れている。背中に“何か”が激突した、いや、足蹴にされた?──どちらにせよその衝撃により《ジムスナイパーカスタム》から放たれたビームの着弾に誤差が生じ、《ビルドストライクガンダム フルパッケージ》のバックパック基部のみが貫かれた。
「ブースターを切り離せ!」
 すぐ隣から発せられた精悍な声に従い、セイが慌てて操作し、《ビルドブースター》を切り離す。次の瞬間、ビームに穿たれ引火した《ビルドブースター》は眩い閃光を伴い爆発四散した。生じた黒煙がすぐに周囲を飲み込み、《ジンクスIV》他三機は距離を取って足を止めた。
「乱暴なやり方ですまない。しかし、これが最も確実な方法だと判断した」
 聞き覚えがある嫌な声だ、とレイジは思った。黒煙が徐々に晴れるに従い、バックパックを失った以外ほぼ無傷な《ビルドストライクガンダム》と、彼らに蹴りを入れた張本人が輪郭を現す。
「まさか」セイがその姿を確認して、感嘆をこぼす。「どうしてここに?」
「おいコラ。誰も助けてくれなんて言ってねーぞ」
 レイジが悪態をついた相手は、隣のコクピット内でフッと笑った。大学生たちは突然の乱入者に呆気に取られ、次いでその顔を見て愕然とした。〈最強の現役高校生〉、メディアで幾度となくそう取り上げられている顔がそこにあった。
「公式戦でないにしても、圧倒的不利を相手に強いる。見かねた蛮行だ」乱入者は前髪をかき上げながら、その精悍な顔つきで大学生たちを鋭く見据える。「彼らを、この私、ユウキ・タツヤが粛清しようと言うのだ。イオリくん、レイジくん」
「上等だ。あの足の速いヤツはお前に譲ってやる」レイジが嬉々として答え、セイが頷く。
 爆煙が霧散した後、屹立するは《ザクアメイジング》。最強の現役高校生と謳われるユウキ・タツヤ、別名〈紅の彗星〉の駆る機体だった。

ザクアメイジング

ユウキ・タツヤ


 堂々たるユウキ・タツヤの機体を見てギャラリーの最前列でラルが一人つぶやく。
「あれはやはりユウキ・タツヤ少年の《ザクアメイジング》。彼が〈HGUC 高機動型ザクII〉を、実弾武装を主とした重武装・重装甲機へと改造した機体だ。鈍重な見た目にからは想像もつかない驚異的な高機動と近・中・遠と距離を選ばす戦える豊富な武装を誇る。〈シャア・アズナブル〉を思わせる赤系のカラーリングとその圧倒的なまでの速さと強さは、周囲をして彼を〈紅の彗星〉と言わしめるに至っているのだよ」

 * * * * *

「おのぉぉ~れぇ~~!! 何が粛清だァ!? 調子に乗るんじゃあない!」
 《ジンクスIV》が怒りに任せて突進してくる。GN粒子が弾けて、残像は遥か後方へと置き去られていく。〈TRANS-AM〉の発光、その速度は依然健在である。
「見せてもらおうか。〈TRANS-AM〉システムの性能と言うものを!」
 タツヤが接近戦に応じ、両手にヒートナタを握る。直線的に振り回されるGNバスターソードの切先を、砂面に弧を描きながら紙一重で避ける《ザクアメイジング》。攻防の最中、二機の距離が心持ち長く開いたその瞬間に《ジンクスIV》は仕掛けた。GNバスターソードを諸手で突き刺しにかかったのだ。タツヤはその悪手を見逃さない。体を左方に逸らして刃先をいなすと、逆手に持ち替えたヒートナタを、GNバスターソードの刀身の下に滑らせた。摩擦で削り出される火花。《ザクアメイジング》は、すれ違いざまに《ジンクスIV》の脇口にヒートナタを叩き込み、そのまま右肩をGNバーニアごと溶断した。

 《ジンクスIV》と《ザクアメイジング》の歴然たる力の差は遠目に見ても判った。たった今は右腕を落とされた直後らしく、破断箇所からはGN粒子が堰を切ったように噴出していた。早く援護しなければ! と《ブラストインパルス》と《クロノス》は遮蔽物を探すため、敵だけを狙い撃てるポジションを取るための移動を開始した。──そのときだった。
「おっと、お前らの相手はオレだぜ?」目の前の《ビルドストライクガンダム》がじりと砂を踏んだ。それは立ち塞がるが早いか、砂塵を割りながらビームサーベルで切り込んでくる。《ブラストインパルス》は咄嗟にビームジャベリンを展開してこれを受ける。しかし、
(こ、こいつ、パワーがダンチだ……!)
力任せに振われた迸る粒子束にジャベリンも反射的にかざした腕さえも容易く抜かれた。圧倒的な性能差に戦慄を覚える隙だけを与えられて、間を置かず《ブラストインパルス》のVPS装甲は袈裟に断たれた。
 《ブラストインパルス》がやられた! ──この攻防の虚をつき、ビームバスターを叩き込もうと体勢を構えていた《クロノス》は、次の瞬間に腹部の水晶体がプラズマ光を爆ぜさせ上半身が弾け飛んだのを理解した。戦場から排される《クロノス》の操縦者が最後に見たコクピットモニターには、別の獲物を仕留めながらも、こちらに銃口を向けるのを怠らない《ビルドストライクガンダム》の鬼気迫る姿が映っていた。
「簡単なことさ」レイジが不遜に言い放つ。「三対一で互角だったんだ。二対一ならオレの楽勝、だろ?」

 終局だった。右腕を、二基のうち一基のGNバーニアを失ったことで機体のバランスが著しく損なわれ、加えて恐怖と焦燥とで大振りに拍車がかかった《ジンクスIV》のGNバスターソードでは、尚のこと《ザクアメイジング》を捉えることが難しくなっていた。全ての攻撃が敵の動きにはるか遅れて空を切る。
「こっちは終わったぜ」《ブラストインパルス》と《クロノス》を始末し終えた《ビルドストライクガンダム》がゆっくりと降り立ち、レイジが意地の悪そうに口を開く。「手貸してやろうか?」
「それには及ばない。待っていてくれ、すぐに終える」
「めんどくせーだろ。あの、トランザム、ってやつ。逃げ足ばっか速くてさ」
「“速さ”とは確かに厄介な要素ではあるが」タツヤは口元を綻ばせ企んだ。「速いだけならいくらでもやりようがあるさ」
 次の攻防では《ジンクスIV》があの最速の斬撃を振り下ろし、《ザクアメイジング》はそれを──避けなかった。GN粒子を纏った鈍重な刀身の腹を右のマニュピレーターで文字通り、“受け止めた”のだ。瞬間の衝撃こそあれ、機体の内肘・後背部・股間・膝裏・足首に備わるサスペンションを自在に駆使してこれを完全に相殺し止める。右手首から伝わる敵を捕えた感触を確認すると、《ザクアメイジング》は右マニュピレーターの五指を強く握りこんだ。
「イオリくん、そしてレイジくんとの共闘。実に燃え上がるべきシチュエーションだった。──だが」タツヤは右の操縦桿を捻り武器スロットからNo.1のパネルを選択すると、敵を冷ややかに睥睨した。「相手がキミでは興醒めだ」
 《ザクアメイジング》は右手で《ジンクスIV》の注意と自由を奪いながら、左手に装備したハンドガンを敵機の腰部、コクピットブロックに突きつけた。胴体に違和感を覚えた《ジンクスIV》がその銃口に気付いた瞬間、ハンドガンの撃鉄が三度跳ね上がった。零距離で撃ち出されたAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は容易に《ジンクスIV》の装甲を貫通し、機体は間を置かず爆炎の炎に包まれた。そこかしこに飛び散った装甲が足元に転がってくるのを《ビルドストライクガンダム》、レイジは複雑な表情で一瞥すると、次に勝利にも動じない好敵手の雄姿を睨んだ。その眼光に《ザクアメイジング》、ユウキ・タツヤも鋭い眼差しで応えた。
「終わり、かな?」セイが二転三転した目まぐるしい戦闘に決着を見、一息をついた──。

「いや、まだだ!」「まだだぜ!」
 叫ぶや否や、タツヤとレイジがほぼ同時に武器のスロットを展開して、両者共に長物を選択する。装備した最大火力で互いの視線の先を瞬時に理解しニヤリと笑う。次の瞬間に、二人は時間差なく同じ方角を撃ち抜いていた。

ビルドストライク&ザクアメイジング2

ビルドストライク&ザクアメイジング3

ビルドストライク&ザクアメイジング1

 漠然と視認できる稜線には小高い砂丘が広がり、その裏で《ジムスナイパーカスタム》がメインカメラを“一発”の弾痕で潰され、砂海に沈んでいた。

 * * * * *

"BATTLE END"
 ガンプラバトルの終了を知らせる電子音声が響き、青くひかめくプラフスキー粒子の柱がゆっくりとバトルベースへと吸い込まれ収まった。ディオラマが消え、ただのユニットへと戻った盤上には、ダメージが反映され四肢の接続が外れた〈HGUC ジムスナイパーカスタム〉・〈HGSEED ブラストインパルスガンダム〉・〈HGAGE クロノス〉、そして〈HG00 ジンクスIV グロスインジェクションVer.〉が力なく転がり、最後まで立っていた二機のガンプラは勝者たちがしれと回収していった。
 周辺に張り詰めていた緊張感はまばらに解かれ、そろそろと駅の方へ離れていく者もいれば、興奮覚めやらず余韻を楽しむ者もいた。悪辣な本性を衆人の環視下で晒した大学生たちは十人ほどの過激なギャラリーに糾弾され、ほどなくして逃げるように去っていったという。

 バトルを終えたイオリ・セイは一度長大息を吐いて、面白くなさそうな顔をしているレイジに労いの言葉をかけると、手櫛を通して前髪を戻したユウキ・タツヤに寄っていった。
「助けていただいてありがとうございます。ユウキ先輩」
 感謝の弁を述べたセイに、タツヤは私立聖鳳学園の生徒会長が見せるあの柔和な笑みを返した。
「しかし、すまない」タツヤが気がかりについて陳謝した。「地区大会の只中だというのに、ブースターの破損を防ぐことができなかった」
「大丈夫ですよ。《ビルドブースター》ならすぐに直せます。うちに帰ればジャンクパーツもありますし、いくらでも手はありますから」
 タツヤはセイのその頼もしい言葉に杞憂を覚えると、にべもなさそうなもう一人の共闘者に向き直った。
「レイジくん。改めてキミの実力には脱帽したよ。改造機とはいえ、バックパックを背負わない素の《ストライクガンダム》であれだけの大立ち回りをやって見せるとはね。まるで──」
 まるで──〈トオル〉のようだ。タツヤは無意識にその感想を思い浮かべたが、口には出さなかった。自分をガンプラに誘ってくれた親友、サツキ・トオル。彼とただがむしゃらにガンプラに打ち込み競い合った夏の日を思い出し、あの頃のノシタルジアを一瞬セイとレイジに重ねてしまった自分に驚いていた。おしゃべりが過ぎるな、自分で自覚し呆れてしまう。
「そんなことより」言葉を止めたタツヤより先に仏頂面のレイジが口を開いた。「何かオレたちに用があったんだろ? そうでなきゃアンタがこんなとこに来るわけねえからな」
 レイジの指摘に図星をつかれながら、タツヤは、かなわないな、と独りごちた。そして、二の句を継いだと同時にその穏やかな顔は、深刻な表情へと一変する。
「二人とも、“プラフスキー粒子流失事件”を知っているかい?」

 * * * * *

 右手を流れる清流が景色を反射してきらきらと白く輝いていた。岸の手前にある街灯に挟まれて規則的に植わっている新緑の隙間からは、午後の光がたっぷりと漏れている。左手に臨む車道の対岸には閑静な住宅街が広がり、時折ピアノを練習している音が途切れては聞こえていた。並木と車道の間にある赤茶けたレンガ畳の歩道を、セイとレイジは商店街からの帰路についていた。
「さっきのガンプラバトル、ユウキ先輩は本当にスゴかった。ぼくも世界レベルで戦うための実力不足を痛感させられた試合だった、とは思う」
 頭の後ろ手に組み不機嫌そうに前を歩くレイジに向かってイオリ・セイは切り出した。レイジはその言葉に反応を示さず歩みを進める。ややあって、セイは相手の返答を待たずさらに続けた。
「でもね」セイは本心を告げる。「ユウキ先輩と一緒に戦っているとき、その、わくわくしたんだ。世界にはまだまだいろんなビルダーやファイターがいて、その人たちと一緒に戦ってみたいって、そう思ったんだ」
 そう言ってセイはポケットの布越しにGPベースを強く握り締めた。GPベースにはめ込まれた翡翠色の宝石がキラリと光る。セイの嬉しげな口調を察して、レイジがようやく歩みを止めた。
「セイ。自分たち以外のヤツは全員敵であり、ライバルだ。特にあのユウキ・タツヤは。腑抜けたこと言ってんじゃねえ」
 振り向きもせずレイジは声を張った。その凄みにセイは気負けする。視線を落とした様子に背中で気づいたレイジは一瞬間置くと、声を落ち着けてこうも続けた。
「ワリぃ。実は、オレもちょっとわくわくしちまった。だから」気楽な声に戻ったように聞こえた。しかし、レイジはきっと情意を綯い交ぜにした複雑な表情をしていたに違いなかった。「おあいこだ」
 その話題はそれ以上続かなかった。またいつものように二人は並んで歩き出した。

 車道へと直角にぶつかる傾斜の緩やかな短い坂が見えてきた。あのアスファルトを上って住宅街を道なりに進むとセイの住まいである〈イオリ模型店〉がある。駅からも商店街からも離れた立地だが、第二回ガンプラバトル選手権世界大会準優勝者である父〈イオリ・タケシ〉の知名度のおかげで、ネット通販を主として個人経営の模型店としてはそれなりに繁盛を見せている。

 住宅街へと左折すると視界の左奥にいつもと変わらぬイオリ模型店は見えてくる──ハズだった。先に異変に気が付いたのはレイジ。
「おい、セイ! あれ、なんかおかしくねーか!?」
 レイジが叫ぶと同時にセイも同じ光景を仰ぎ見た。と同時に恐る恐る脚を速めると、次の瞬間には二人は全力で駆け出していた。まさか、そんな、いったいどうなっているんだ!? セイは息を乱しながら、さきほどのユウキ・タツヤとの会話を思い出していた。

 * * * * *

「二人とも、“プラフスキー粒子流出事件”を知っているかい?」
「プラフスキー粒子流出? なんですか、それ?」
「わたしも知り合いから聞いた話だが、なんでも“バトルベースからプラフスキー粒子が漏れ出す”事件がここ数日頻発しているそうなんだ」
「そんな馬鹿なことって」
「しかも流出した付近のガンプラが一つ残らず消えるという話でね。万が一ということもある。イオリくんたちも気をつけて欲しい」

 * * * * *

「母さん! 委員長も!」店の前によく知る姿を視認して、セイが疾呼しながら脚の回転をさらに上げた。
 店頭の自動販売機の前にはイオリ・セイの母〈イオリ・リンコ〉と店に遊びに来ていたセイのクラスメイト〈コウサカ・チナ〉の二人がへたり込み狼狽していた。周りに近所の人の姿も見えるが、皆そのただならぬ事態に飲み込まれてしまっている。セイとレイジが駆け寄るとチナが青ざめた顔で縋ってくる。小さな肩を小刻みに震わせて、今にも消え入りそうな声だった。
「セイ、これはいったいどうしちゃったの……?」
「イオリくん、バトルベースからいきなり、あふれ出して……」
 視線を伏せたチナが震える指で差した先には、禍々しい青白い粒子に侵されたイオリ模型店と、家屋から漏れ出した粒子の群が意思を持ったかの如く巨大なうねりとなって、上空をかき混ぜながら緩慢と周辺に降り注いでいる光景があった。レイジとセイはその美しい地獄絵図に見下されながら身構えた。
「なにがどうなってやがる!?」
「プラフスキー粒子……、いったいなにが起こっているんだ!」
 いまはまだ日盛りを少し過ぎたばかり。青白いヴェールに透かして見える白妙の太陽はどこまでも高く遠く見えた。


第二章につづく

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ジャンル : 小説・文学

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これは

こんにちは、ふらりと立ち寄ったらなんて素敵な小説を書いてるんですか!?
しかも初っぱなから熱い共闘、ニヤニヤしてしまうモブ機体チョイス!たまりまへん!

次回も楽しみにさせていただきます!

No title

コメントありがとうございます。

>おぶらーとさん
本編で主人公との共闘がないままユウキ・タツヤの名を捨てると誰が予想したであろうか...
モブ機体はあれです。HG化しそこねた機体に一縷の望みを託してw

応援ありがとうございます。励みにさせていただきます。
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ロボとヒーローをこよなく愛しすぎて生活費と部屋のスペースが圧迫される日々を送る20代後半。
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